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個人の感動力が、集団社会にどのように働きかけるのか?

そして、感動が社会づくりにいかなる力と価値をうみだすのか?

"感じて動く"。それは心地よいことであり、自己と社会の幸福につながる。しかし、感動体験は主観的なものであり、個人的な出来事です。では、「感動の力」は、集団社会の幸福づくりにどのように働きかけるのでしょうか?

孤高の求道者でもない限り、人の多くは自分の感動体験を語りたくなり、他の人にも共有してもらいたくなります。ある人の感動体験が、自分の志向する何かと響きあった時に人は共感します。そして感動の力はここで発現します。

『3.11』の事態推移をマスコミは間断なく報道しました。同時にインターネットやSNSなどで、被災者を含む個人からの膨大な声もアップリンクされました。マスコミ報道とは別に、心が激しく動揺した一般の人たちからの生々しい無数の発言は、さまざまな感動を伴って広がったことでしょう。

震災直後の"感じて動いた力"を数字で見てみます。

社会的な行動では、八割近くの人たちが何らかの寄付をし、日本赤十字社には、年間寄付金の三五倍もの金額が八か月で集まったそうです。生活消費では、(株)デルフィスの「第二回エシカル実態調査(2011.8)」によれば、震災を機に回答全体の三割前後の人がそれぞれ、「社会貢献につながるブランドや商品には共感できる」、「社会のために役立ちたい」、「生活者と企業が一丸となって社会をよくすることに取り組むべき」と考えるようになり、このうちの八割弱の人がエシカルな意識を持つことが明らかになりました。「エシカル」とは人・社会や地球のことを考えた"倫理的に正しい"消費行動やライフスタイルのことです。

また、(株)シタシオンジャパンによる「震災後の社会生活に必要な価値観に関する意識調査(2011.10)」では、今後の社会生活で重要と考えることの上位三つは、「他人を思いやる心」、「他人との助け合い」、「環境への配慮」で、「経済成長」、「雇用創出」、「グローバル化」を上回っています。総じて生活価値が、短期志向で身の回りの視点から、長期的で社会的な広がりをもつ視点で考える、持続可能性を意識した考え方へシフトしている、としています。

他人への思いやり、助け合い、といった互恵性や利他的な価値観については、経済広報センターの震災後の調査(2011.5)によると、震災を機にボランティア意識の高まりが回答全体の三分の二を占め、その内の八割以上の人たちがボランティア活動への参加意向があることを示しています。一方、ボランティア活動をした感想では、「時間を有意義に過ごせた」、「活動をして楽しかった」、「社会のために役に立てた」がそれぞれ上位を占めたそうです。

こうした機運は、震災直後の社会的動揺の中での、一時的な熱狂なのかも知れませんが、「第三回エシカル実態調査(2012.6)」で追跡したところでは、社会倫理に基づくライフスタイルについて、前回調査と比べ、「興味度は五割超、時代合致性には七割超が賛同」、「ボランティア参加者、エシカルな団体への参画者は過去最多」、「今後の拡大のポテンシャル層として一○代男性に注目」などの傾向を指摘しています。もちろん震災翌年だから"余熱"もあるでしょうが、他人に役立つことに意義を感じ、それが自分の幸せとも深くつながることに気づいた、ということもあったのではないでしょうか。そしてこれをきっかけに、今後は自発的な利他的行動がより活発なものになっていくようにも思われますが、どうでしょう。

人間はもともと利己的だとする見方もありますが、最近の脳研究では、共感は恐怖や怒りと同じように、脳の深いところに根ざしているらしいことがわかってきました。発見した脳科学者は、「共感や賞賛といった感情は文化的なものという印象があるが、これらは脳の領域としては、恐怖などの生物進化的に古い感情とそう遠くない部分に根ざしている」と述べています。また、人間の大脳が寄付などの利他的行為を、快と感じる仕組みも解明されつつあるようです。感動・共感・幸福、このかかわり合いをもう少し見ていきたいと思います。