人の"感動"は"幸福"にどうかかわるのか?"共感動"の源泉について、ふたたび考える。

――人生における人びとの幸福は、友情と恋愛が豊かな青春に始まる。別に気取って書き出してみたのではなく、これは、自然言語処理で機械的に抽出された、感動を与える文に多く出現する単語の上位、「人生」、「人びと」、「幸福」、「友情」、「恋愛」、「青春」をただ順番に並べただけです。理屈の上からは、これらを用いた文は感動的なものになりやすいそうですが、どうでしょうか?

感動は、喜び、悲しみ、怒り、恐れなどの基本感情とは違い、いくつかの感情が心身状態と複雑に絡み合った複合感情です。基本感情は、獲得、喪失、妨害、脅威などの状況刺激を与えれば、比較的容易に感情喚起が可能ですが、感動の喚起はさまざまな感情が混入するため、共通した状況刺激を見出すのが難しいようです。実際、感動した際に湧き上がる感情を調べたところ、喜び・嬉しさ(73.2%)、悲しみ・哀しみ(40.6%)、共感・同情(13.8%)、驚き(13.8%)、尊敬(8.0%)、というデータがあり、上位ふたつが喜び-悲しみの相反する感情であるように、一筋縄ではいかないようです。

感動は、感情の動きが烈しい体験なので自伝的記憶として残りやすく、それが手掛かりになって、発想や気持ちの転換や拡大が促され、自己の方向づけや動機づけに導く力があります。それは感動体験を思い起こす際に、その時の背景事情なども伴って思い返されるため、これと現況とが照合されることで、捉え直しや新たな意味の添加が生じるからです。

冒頭の機械処理で抽出した"感動の言葉群"に目を戻してみます。

「人生」は自分が存在する軸線。「人びと」はその軸線の背景環境で"世間"と置き換えてもいいでしょう。「幸福」は人生の目標。つまり、この三つは人の境涯の前提基盤です。とすれば、以下に続く「友情」、「恋愛」、「青春」...は、多くの人たちが、人生を感動的でドラマチックにすると考えている状況刺激の因子です。

2011年のブータン国王夫妻来日を契機に、その国是である国民総幸福量(GNH)への共感が広がるとともに、「幸福」に対する関心も急速に高まりました。GNHは一.心理的幸福、二.健康、三.教育、四.文化、五.環境、六.コミュニティ、七.いい統治、八.生活水準、九.自分の時間の使い方、の九つの構成要素による、生活幸福度の指標です。心理的幸福とは幸福感のことで、正・負の感情の発生頻度を、地域別に聞いてまわり計測したものです。

幸福感は、心が満ち足りている感覚で、その基準は、個人ごとに信仰心やものの考え方などで異なりますが、この幸福感の中には、行為自体に没頭できた満足もあれば、生涯にわたり心身に深く刻まれることになる、深い感動体験もあるでしょう。 "感動は前進、満足は後退"という格言がありますが、活動経験を通して深い感動が獲得できたならば、幸福な人生の標べを得る以上に、『青い鳥の卵』を自らの内に宿したことになるのかも知れません。

心理学や社会学などの最新研究成果に基づく、アメリカのニュースサイト「io9」が「科学的にみた幸せになるための六つの秘訣」という、記事を書いています。一.個人の幸福感は社会的なつながりを通して拡散するので、幸せな人と一緒に過ごすのが望ましい。二.特技や能力を身につける努力をした人は、一時的には多くのストレスを感じるが、その長期的投資の結果、大きな幸福感と満足感が得られる。三.特技や能力習得の際の一時的なストレス軽減のキーワードは「自己管理」と「仲間」である。四.感情が笑顔を生むと思われがちだが、容姿に関係なく、笑顔が感情を生むことが実験的にも明らかになっている。五.精神的苦痛に際し、精神療法と金銭補助の効果比較をした結果、精神療法の方が金銭補助よりも32倍も費用効果が高い結果を示した。六.幸福を求める過度な期待からの失望は、幸福感を大幅低下させるため、他人の自己啓発ハウツーや体験にふりまわされず、自分らしいありのままの行動に心がける。

最後に、慶應義塾大学大学院SDM研究科の前野隆司教授は、人が幸せになるためのコツとして4つの因子(非地位財)を提唱していますので、それを紹介します。

第①因子は、「自己実現と成長の因子」で、目的を達成するための自己成長と自身に向かう特徴のある因子です。

第②因子は、「つながりと感謝の因子」で、感謝傾向と他者に向かう特徴のある因子です。

第③因子は、「楽観性の因子」で楽観的で精神的に安定している因子です。

第④因子は、「人の目を気にしないマイペースの因子」で、自己を確立し他者と比較しない因子です。

要するに、②みんなといっしょに力を合わせ、③なんとかなるさ、と楽観的に、④批判の目なんか気にせずに、①大きな夢と希望を目指そう!、という訳です。