ホーム 感動ラボ 感動ラボ 感動のハナシ リアル・コミュニケーションの場と感動

ここでいうリアル・コミュニケーションとは、率直にフェィス トゥ フェィス、ハンド トゥ ハンドの現実体験としての交流交信のことですが、人を感動体験させる媒体装置になるリアル環境に話題を狭めて考えてみます。人はいかなる空間環境のもとで、どんな感動が誘発されるのか。感動を心が動く方向で分けたNHK放送技研の感動分類表にならって仕分けてみることにします。

分類表ではまず、感動を受容と表出に大別し、さらに表出を感情のポジティブ・ニュートラル・ネガティブの三種に分けます。そのうえで、受容→「受容」、正の感情表出→「魅了」「興奮」「歓喜」、負・中立の感情表出→「覚醒」「悲痛」と六つにカテゴリー区分し、各々の下位に十二の印象群のクラスをおいています。

とりあえず、六カテゴリーの感動に実空間環境との対応性を考慮しながら充て込んでいき、各々の特性を考えてみることにします。

①「受容」体験の実空間
主体が状況や環境などに受け入れられたことを自覚して湧き起こる感動で、「心にしみる」「心温まる」「胸がいっぱいになる」のクラスを擁します。空間環境といっても場所というより状況だろうと思います。一つに、旅先や日常での人情、寛容、信頼といった他者からの想いを実感する経験をもとめて旅をしたり、追憶したりする情感体験ではないかと思います。強いていえば旅情・郷愁や情緒が感受できる抒情的な空間です。もう一つは、大自然、大宇宙や神仏などの超越的・絶対的寛容や愛に向いたきわめて抽象性の高い感動で、こちらはパワースポットのような神秘的・宗教的な精神性の高い空間、あるいは優しく包みこまれる母性的な印象空間などが相応しい気がしますが、どうでしょう。

②「魅了」体験の実空間
あこがれや尊敬の対象とのかかわりから生じる感動で、「心を奪われる」「胸をうつ」のクラスを擁します。空間環境としては、ショー・コンサート空間、鑑賞空間、ブライダルや上流・高級空間などから宗教空間まで、魅了対象を中心に展開するさまざまの体験空間が該当しますが、主体と対象との関係で留意するポイントは二つあります。一つにあこがれる態度の違いです。つまり、単にあこがれているだけなのか、あこがれを実現したいのか。二つめはA.素朴的( 例、あこがれのアイドル)、B.感銘的( 例、尊敬する偉人)、C.啓示的( 例、畏敬する超越的存在)、という対象のレベル差からくる違いです。

③「興奮」体験と「歓喜」体験の実空間
ともに、祭り、フェスティバル、コンサート、マスゲーム、スポーツ観戦、ギャンブル、絶叫マシーン、遊園地、テーマパークなど、刺激的で非日常性をともなうイベントや遊びの体験空間が該当します。
前者は「興奮する」が示すように、生理的高揚に比重がおかれたニュアンスのもので、極端には熱狂状態です。そのため、多くは一過的で熱狂対象が終結すれば平静に戻ります。特に集団体験の場合、周囲の反応に同調して更に反応が強くなる傾向があり、その増幅が理性を失わせ暴動や群集事故も発生しやすくなります。
後者は「心がおどる」「歓喜する」からなる、情緒的高揚に比重をおいたものです。自分または他人の幸福や成功経験、それらの予期や回顧などにともなう快感情に包まれた興奮状態で、個人の欲求とその満足度との関係で質や強度が異なります。そのため欲求充足があるほど強く記憶に残ります。
こうみると、「興奮感動」は外的要因に支配されやすく、「歓喜感動」は内的要因に支配されやすいため、目的にあわせて情動誘導の演出を工夫する必要がありそうです。

④「覚醒」体験の実空間
主体が予想外の事態と遭遇して驚愕した際に生じて深く心に刻まれる感動で、「目が覚める」「心をわしづかみにする」のクラスを擁します。思考転換・視野拡大・興味拡大などのきっかけとなるプログラムや人的サービス、思わぬハプニングといった、よいエピソード記憶を演出構成する要素からなります。ハンズオン演出、お化け屋敷や舞台技術の効果演出ギミック、あるいはドラマツルギィ(作劇術)的テクニックやシステムといったソフトウェアや人的ホスピタリティが重点におかれるものが該当します。

⑤「悲痛」体験の実空間
文字通り、主体が深い悲しみにおちいった場合やその回顧、償う気持ちなどから生じる、烈しいネガティブ情動によるものです。
空間環境としては、葬式や祈念式典などのセレモニィ、葬祭施設、宗教施設、霊園や霊場の空間、戦跡や事故現場跡など、負の体験記憶にまつわる場所が該当します。これらの空間環境では、敬虔さや静謐さ、清浄さが不可欠ですが、悲しみを歓喜に転換して安息、慰撫、癒しにつなげるカタルシスを増進させる演出構成や仕掛けはとても重要です。