経験経済(Experimental economy)という言葉をご存じですか。性能・品質・価格本位のプロダクツ経済と、顧客便益志向のサービス経済の次にくる経済価値です。モノやサービスの顧客満足ではなく、それを通した経験(体験)を演出することを付加価値づくりの中心において相手に消費価値を感じさせる、という考え方です。
たとえば、行列のできるラーメン屋がより繁盛するのは、確かに味が良いこともありますが、長く待ってようやく味わえた達成感にも似た満足による経験の方が価値として勝ることにもよります。このように商品を取り巻く経験までを含めた事柄に対して価値意識を持つのが経験経済です。左の表は、経済価値(人がなにに対してお金を払うか)の変遷についてバースデイ・ケーキを例に説明したものです。(表2)
経験経済化した市場に影響力をもたらすには、①どのような経験が消費欲求を高めるのか、②その経験が生活者にいかなる付加価値をもたらすのか、の二つが大きな鍵となります。と同時に供給者の企業としてはそれらがコモディティ化しないよう、消費市場での欲望水準を高く保ち刺激し続ける対策と努力が必要となります。
その代表的な方策としてブランド戦略があります。ブランドはある商品を別のものから区別するシンボルだけでなく、生活者がその商品を見た際に想起する周辺イメージを総体的に含んでいます。だからブランド力とは商品自体よりも、供給側である企業の価値観・世界観に共感や同意・支持する力ともいえます。ブランド戦略では企業個性を社会と脈絡づけるストーリイ性が重要です。ここでいうストーリイとは、企業と生活者のマインドを結ぶブランディングの要素となるメッセージやイメージ群を構造化したものを意味します。このためそこでは、印象深く共感を呼び強く心を動かす演出として感動が有効にはたらきます。
近ごろ、マインドシェアという言葉もよくいわれます。文字通り、あるブランドがどれだけ生活者の心理を占有できたか、ということで、感動はそのマインドシェア戦略上の強力な武器になるわけです。
コミュニケーションが成立する背景となる共有情報をコンテクストといいますが、そこに感動演出を加味して戦略的に人の情・知・意を刺激していくことで、マインドシェアを拡大していく。方法面でいえば、これが感動戦略なのでしょう。
とするならば、企業にとっての感動戦略とは、市場やステイクホルダに対する感動供給を目的に戦略展開を図り、企業として新たな求心力をつけていく仕組みを考えることとでもなるのでしょうか。
ところが、ここで疑問がいくつか浮かびます。
つまり、①感動はコントローラブルに扱えるものなのか、②第三者が人の感動を再現することは可能なのか、③出来るとすればどのような方法なのか、といった問題です。感動戦略を具体的に掘り下げていくためには、これらについて考えていく必要があります。