あらたまって「感動とはなにか」を説明しようとすると、どこかとらえどころのない感じがあって、言葉に詰まってしまいがちです。
手近な辞書、広辞苑を開けると「感動」を"名詞。深く物に感じて心を動かすこと"として"名画に感動する、感動を覚える、感動にひたる"の用例がありました。言葉として「感動」の最も古い記載は平安時代初期からあるそうですが、古語では「感ける(カマケル)」です。辞書には"①感ずる、感動する、心が動く。②一つのことに心をとらわれて、他がおろそかになる。拘泥する"とあります。「感けわざ」という古語もあり、これは"神に捧げる豊作祈願の踊り"のことです。古人にとっての感動のニュアンスが偲べる気がします。
ところで感動表現の語彙にはどれだけ広がりがあるのでしょうか。
そのことでは、2005年にNHK放送技術研究所が「感動の分類と感動の評価語について」という研究報告をしています。
技研では音響システムの開発技術評価に、周波数特性など物理量の良さだけでなく人が感覚的に感じる良さを尺度に加え、その基準に「感動」をおきました。ところが、感動には喜びや悲しみなどのさまざまな心理状態があり、定義も研究者の間でも曖昧だったためアンケート調査で150の感動表現語を収集し、個々のニュアンスの類似度から整理して「感動」に内包されるニュアンスを、3種の感受対応のもと6カテゴリーと12クラスに分類しました。(図A)
なお、この報告書では「感動」を"肯定的な体験を表現する総称であり、伴う感情の質だけではなく、心が動く向きによって分類される"ことが分かったと結んでいます。
感動が多様な広がりをみせるのは、思い入れが非常に強い個人的な体験だからなのでしょうが、具体的な個々の体験としての感動はどのように分類整理したらよいのでしょうか。
個人体験の感動事例は、A.驚きの感動、B.達成の感動、C.充足の感動、D.回帰の感動、の四つに分けられます。この四分図に、たとえばマズロー心理学が説く①生理的欲求、②安全の欲求、③所属愛の欲求。④自尊の欲求、⑤自己実現の欲求、からなる人の質的な欲求段階を次元軸として組み合わせた立体座標を想定すると、個々の感動の位置を定め分類していくための「感動空間」になりそうです。