感動は、驚きのような衝撃度の強い感覚反応のうえに快の気分や感情が加わった体験で、しかも個人の特性や経験を反映した主観的な認識です。それを、たとえば「感動率」のような尺度を定めて計測評価することは可能なのでしょうか。

広告代理店の博報堂は、イベント・プロモーションの価値測定手法「EVM」を開発し、イベントでの感動の質的効果を検討するために三つの価値群のもと10の価値に分類し指標化しています。(図D)

具体的にどのような測定評価をするのか、その内容はコンサルテーション・ノウハウにかかわるためか明らかにされていません。それならサイエンスでは、感動をどのようにとらえようとしているのでしょう。

文理融合領域の研究分野に感性工学があります。簡単にいうと、人の感性やイメージを工学的に翻訳して具体化する技術を研究開発する学問です。その感性工学にならえば、感動計測は"対象の物理的等特性に対する人の感覚的反応が誘起する快感情量の計測"でしょうか。

この計測のためには①人の感覚反応と快感情の関係、②物理特性と心理要因との対応関係、を明らかにすることが必要です。アプローチには二つの方法があります。一つは印象法という心理学的な測定法で、ある事柄に対して個人が抱く印象を相反する形容詞の対を用いて測定するSD法(Semantic Differential method)がよく用いられます。もう一つは生理的な表出の測定で、外部刺激を受けて発生した感情量を脳波、眼球運動、心拍、筋電位、呼吸、血圧、血中成分などから生理学的に測る方法です。こうした研究は、金沢工業大学の感動デザイン工学研究所、九州大学芸術工学院をはじめ、多くの大学研究機関ですすめられています。

また、特に最近注目すべきはやはり脳神経科学です。今世紀に入って急速に研究が進み"脳力ブーム"のように一般への浸透も明らかで、脳活動と経済行動を結ぶ"神経経済学"やそれを基礎とする"ニューロ・マーケティング"はビジネスの世界にもインパクトを与えています。もちろん、f‐MRIや光トポグラフィなどによる脳神経レベルからの感動の計測評価を基礎づける研究成果も生まれつつあるようです。

こうした「感動サイエンス」は計測方法だけでなく、感動体験が心脳や生理を活性するさまざまな効用を発見してきました。感動の計測はそうした成果を反映させることで、ビジネス戦略を補強し客観的検証性を明らかにするだけでなく、感動体験という強烈な心身的イベントが、人を元気づけてポジティブな人生と社会をつくる資源かつ原動力となる価値を根拠づけるのです。