コンシューマ・インサイトという言葉が最近よく聞かれます。企業と生活者の共感点を洞察することで、今日のマーケティングでは重要な観点です。
人は必ずしも、頭で考えて合理的にモノを選ぶわけではありません。「いいな、これ」と共感を持ったもの、心を動かされたものに手を伸ばすのです。その心を動かすツボを探すのがコンシューマ・インサイトです。だから感動にもとづく顧客理解の取組みといいかえても構わないと思います。
人はなぜ感動をもとめ、感動に動かされるのでしょうか。
心理学では感動体験の効用を、①ヤル気やポジティブ思考、自立性・自主性を奮い起すきっかけとなる、②思考転換・視野拡大・興味拡大などによる新しい考え方・価値観獲得のきっかけとなる、③他者からの愛や慈悲をきっかけに人間愛や寛容、利他意識に目覚める、としています。そして、強烈な情動体験の感動は記憶に残りやすく、くり返し思い出すことでこれらの効果が強まるそうです。また、感動体験はすべてポジティブな体験のため思い返すこと自体も快感です。だからブランディングのような人の心の琴線にふれる戦略展開では、感動は使い方次第で大きな力を発揮します。
感動の力をもっとも生かせるのは、企業ブランドと生活者がじかに接するイベント、コンベンション、ショールーム、店舗などの実空間としてのタッチポイントです。
これら現実体験領域で感動効果を狙うコミュニケーション戦略をおこなうには、どんなことに留意して演出工夫をしたらよいのでしょうか。
結論からいえば、上質なブランド・ストーリイを語り、ブランド世界を五感に訴え、人びとの願望を引き出す数々のエピソードをちりばめて、人びとを共感へ巻き込む場を演出構成すること。あわせて、人が感動体験に価値をもとめる陶酔、臨場、一体、共創、の四つを、意識を方向づけるためのストーリイを軸に展開させることです。
その際のブランド・ストーリイは、既述した"感動の効用"を考慮すると次のようなことが有効と思います。 A.そのブランドで目的がかない自己実現できると感じるストーリイ性、 B.ブランド体験したことを人に話したくなるストーリイ性、 C.ブランドに接することで、それとの絆や縁といったつながりを感じるストーリイ性。
また、感動とストーリイ性には受け手と与え手の関係から①努力の末の報奨のように外部提供されて感動する場合、②与え手が用意したストーリイに受け手が感情移入して感動を生じる場合、の二通りがあります。それでいくと、前者としては感動効果で顧客が個人的なよい思い出として深く記憶に刻むことを目的に、後者としては顧客が購入後の自身の成功や満足をイメージしてもらうことを目的に、という風に使い分けることが戦略効率の向上につながりそうです。
社会の価値意識がモノからコトへ重心を移した時代では、便益性を充足する「顧客満足」以上に、提供する経験を通じて得られるポジティブな情熱や夢を期待する「顧客感動」がもとめられており、それに応えることこそが脱コモディティの活路だと、経験経済は説きます。ならば、顧客がワクワクする感動体験を演出し仕掛ける側は、それ以上に感動をもとめる情熱を持ち続けることが必要なのでしょう。