マーケティング・リレーションズは一般に戦争や戦闘をメタファに語られがちで、シェア拡大(=陣取り)にはじまり、戦術・陣容・ターゲットなど勇ましい用語の中で議論されます。ところが、感動の大きさを顧客対価に比例させることを目的とする感動マーケティングの場合では、演劇をメタファとし、ストーリイ性・演出・場面設定・ゲストという枠組みで発想し考えていく方がかなっているように思います。
これまで見てきたように、感動のメカニズムには①人は自分に関心のあることにしか感動しない。②感動は不快の情動が快の情動に転換するときに発生する。という二つの原則があります。すると感動の受け手は様々なバック・グランドを持っているため、同じ題材や話題を提供しても感動の仕方が異なることになります。ならば、多くの人を同時かつ同質に感動させ戦略的な効率を上げるためのツボとはなんでしょうか。
第一のツボはカタルシスの提供です。カタルシスとは、鬱積した心の澱をなにかのきっかけで解放し気持ちを一変させる演出をさす演劇用語です。そのためには、情動を緩急刺激するデザインがあります。たとえば、参詣者が長い石段を苦労して登り極めた瞬間に立ち現われた山間の寺社伽藍がいっそう荘厳でありがたく感じられるように、受けたストレスがある瞬間に解放されることで大きな歓喜が湧きあがる空間構成。またはローラーコースタの山あり谷あり、ひねったり回ったり、色々な幅の緊張と緩和を計算したハラハラドキドキの体験構成。あるいは数寄屋の明と暗、厳と優、大胆と繊細のような調和や対比の妙が冴える展示演出。またはBGM、空間内圧や温度変化等の環境効果。などです。
第二のツボとしては、ストーリイ性です。テーマパークでは、待ち時間にゲストに物語の世界観・状況背景などを共有情報としてあらかじめ提供し、物語の最高潮のシーンをアトラクション体験させます。つまりアトラクション体験するまでに展開される背景描写がアトラクション自体の持つストーリイの構成要素となっています。この仕掛けはゲストの感情移入を誘導するとともに、コンテクストを呈示することで個々の心の琴線の差異最小化を狙って、多くの人に同質の感動を与えようとする工夫です。
第三のツボは、ホロニック構成です。ホロンは、人体における細胞のように、部分であるが全体としての性質も持ち機能する単位のことで全体子ともいいます。ある理念やメッセージのもとで設定された、人の感動属性バリエーションに沿ったストーリイ群や心にフックしやすそうなキャラクタ群を幾重にも折り込み、ある感動の対象が全体のポリシーにつながり、全体のポリシーが個につながっているようなストーリイの多重構造をデザインして感銘を深めさせる仕組みと仕掛けづくり、それがホロニック構成ということです。
感動を効率よく誘導するための骨組みとして基本となることは、このあたりでしょうか。